第四章〜思惑〜
ああ、またあの夢だ・・とリョウは思う。
リョウは真っ白な空間に立っていた。
音もない真っ白な世界。
「無」というのはこんな感じなのかと、彼はぼんやりと思った。
目の前に少女が現れる。
栗色の髪の、あの少女だ。
またあの冷たい、凍るような視線がつきささる。
だめだ、負けちゃ駄目だ・・・。
リョウは少女の瞳を見据えた。
体の震えが止まらない。
しかし、勇気を振り絞って口を開いた。
今回は、上手く声を出すことは出来るだろうか・・。
「君は・・・誰?」
声になったのか、ならないのか・・・。
自分の声も上手く聞こえない。
言葉に出来たのかも分からない。
しかし、目の前の少女は確かに目をみはった。
「おーきてくださーい!!」
「うわぁっ!!!!」
突然耳元で叫ばれて、リョウはベッドから転げ落ちた。
腰から落ちて、その痛みから一気に目が覚める。顔を上げると赤毛の髪を2つにくくった
20代位の若い娘が腰に手を当てて、彼を見下ろしていた。宿屋の娘だ。
「お、おはようございます・・・。」
思いっきり強打した腰をさすりながらリョウは娘を見上げる。
「はい。おはようございます!」
にっこりと笑って娘はカーテンを開けた。
朝日が入り込む。
3日前のあの日、あの老婆と別れてからリョウはこの宿屋に滞在していた。
「いいお天気ですねぇ。絶好の旅立ち日和です。」
「はぁ・・・そうですね。」
本日は快晴。
空には雲1つない。
絶好の日和とはまさにこのこと。
老婆から自分がZEROを止める為に選ばれたと聞かされ、リョウはZEROを止める旅に出ることになった。
なぜ3日間もこの宿屋に居るかというと・・・。
「馬車の出発時間は9時ちょうどですよ。 首都行きの馬車は3日おきにしか出ませんから気をつけてくださいね。」
笑顔で娘が言う。
そういうことなのだ。
別れる直前に老婆はリョウに言った。
『まず、あんたにやってもらうことは、首都に行ってもらおうかねぇ。』
なぜそうなのかはリョウには分からないが老婆曰く、
首都に行けばおのずと自分が次にやるべきことが分かるという・・・。
しかし、ここの町は首都からだいぶ離れているために馬車で移動しないといけないのだ。
大型の馬車の為、移動はゆっくり。
ここから首都までは約5日もかかる。
歩いてどの位かというと・・・あえて言いたくないのが心情。
しかし、3日という余裕があったおかげでリョウは旅立ちの準備が出来た。
突然ここへ連れてこられた訳で、お金も持ってきてないし何より心の準備が必要だった。
決心したと言っても簡単に体が動く訳でもない。
老婆は旅の費用と言ってリョウにお金を持たせてくれた。
そのお金でリョウはまず、ノアに手紙を書いた。
きっと、ノアは心配してくれているだろうから・・・。
返事は次の日にすぐに来て、大きい字で一言、「頑張れ。お前なら出来る」と書いてあった。
ノアらしい、とリョウは笑みをもらす。
きっと聞きたいことも沢山あるだろう。
しかし、答えられないのを知ってかあえてそのことは書かれていなかった。
その気遣いが胸にしみる。
そういえば彼は目の前でリョウが消えて驚いたりしなかっただろうかと、ふと思った。
もう1枚手紙が入っていて、それは村長からのものだった。
村長は、何も覚えていないという・・。
しかしノアから話を聞いて、今までのリョウに対する酷い仕打ちを謝る文がつづられてあった。
「辛いことがあったらいつでも帰っておいで」という言葉が最後に書いてあった。
手紙から彼の暖かさが伝わる。
そう、自分を息子のように可愛がってくれたもう一人の父のような彼のぬくもり・・・。
リョウは着替えを済ませながら手紙をカバンに入れた。
胸が熱くなるのを感じた。
「あ、もうお出かけですか?」
カウンターにいた娘がリョウに声をかけた。
出発時間よりだいぶ早いので不思議に思ったらしい。
「はい。途中、買い物をしてから馬車に乗ろうと思って。」
そうリョウが言うと娘がにっこりと笑顔になった。
「そうですか、気をつけていってらっしゃい。」
そう言って、ひらひらと手を振った。
「はい。ありがとうございます!」
リョウはにっこり笑って馬車乗り場を目指した。
突然の旅。
そして、これから自分がやるべき事。
まだ、実感が湧かない。
だけど、一度決めたことだから・・・精一杯やろうと思うんだ。